GX推進のためのグリーン鉄研究会を踏まえた業界ガイドライン策定
2024年9月に発足した経済産業省「GX※1推進のためのグリーン鉄研究会(以下、グリーン鉄研究会)」では、低CFPの鋼材のうち、「GX推進のためのグリーン鉄」を「企業単位での追加的な直接的排出削減行動による大きな環境負荷の低減があり、排出削減行動に伴うコストを上乗せした場合に、一般的製品よりも価格が大きく上昇する鋼材」と位置づけ、政府による優先調達・購入支援等を重点的に講じることを通じた需要拡大支援を行う対象と整理しました。
※1 GX:グリーン・トランスフォーメーション
また、グリーン鉄研究会では、「非化石証書を活用した電力を使用した鋼材」について、「非化石エネルギーの拡大というエネルギー政策の観点から議論されるべきものであり、鉄鋼業から直接排出される温室効果ガス(GHG)の排出量をGX投資によって削減することを主に論じてきた本研究会としては、主として扱うテーマではない。一方で、非化石証書を活用した鋼材について、非化石証書の鋼材への割り付け方等の運用方法については様々な方法が考えられ、運用の透明性を確保する上でも、鉄鋼業界内で広く議論が行われ、検討が深まっていくことが期待される」と整理しました。
グリーン鉄研究会での整理を踏まえ、鉄鋼業界では2025年10月に以下3点のガイドラインを策定・改定しました。今後も、関連ルールの見直しやステークホルダーからのご意見等を踏まえ、必要に応じて改定を行ってまいります。
@「鉄鋼製品に関するカーボンフットプリント製品別算定ガイドライン」
- ・鉄鋼製品のカーボンフットプリント(CFP)算定において業界共通のルールを整備することを目的に新たに策定。経済産業省・環境省のCFPガイドラインを基礎に、鉄鋼業の特性を踏まえ再構築。
- ・加えて、鉄鋼製造プロセスにおける排出削減のGX価値をCFPに直接反映する方法(GXアロケーション方式)や、非化石電力の活用に関する考え方についても、「GXスチールガイドライン」「非化石電力鋼材のカーボンフットプリント算定ガイドライン」につながる背景なども含め概要を提示。
A「GXスチールガイドライン」(旧「グリーンスチールに関するガイドライン」)
- ・旧「グリーンスチールに関するガイドライン」で規定していた、削減証書を用いるGXマスバランス方式に加え、新たに鉄鋼製造プロセスにおける排出削減のGX価値をCFPに直接反映する方法であるGXアロケーション方式を導入。
- ・ガイドラインの名称を「GXスチールガイドライン」へと改称。

ロゴマークは、一般社団法人日本鉄鋼連盟の商標として商標登録出願中です。
B「非化石電力鋼材のカーボンフットプリント算定ガイドライン」
- ・非化石電力を積極活用することで鉄鋼製品CFPのうち電力相当分を低減するための、業界共通算定ルールの整備を目的に新たに策定。
- ・追加的な経済的ベネフィットがなければ成立しない非化石電力の活用に対してより多くの支援が必要なことを踏まえ、非化石電力の種類やコストの違いを踏まえたタイプ分け※2の考え方を提示。
※2 CO2e 1トン当たりのGHG削減の追加コストがJ-クレジット (再生可能エネルギー(電力)由来)と比較して、
・タイプ1:(CO2e 1トン当たりのGHG削減の追加コスト) ≧ (J-クレジット(再生可能エネルギー(電力)由来))
・タイプ2:(CO2e 1トン当たりのGHG削減の追加コスト) < (J-クレジット(再生可能エネルギー(電力)由来))
なお、コスト負担の大半を国民等(幅広い一般事業者含む)が負担することを前提とした非化石電力の使用は本ガイドラインの対象外。

非化石電力鋼材ロゴマークは、一般社団法人日本鉄鋼連盟の登録商標として商標登録出願中です。
GXスチールとは
GXスチールは鉄鋼メーカーの温室効果ガス削減効果を特定の鋼材に反映したものです。
GXスチールの供給方法には以下の2通りがあります。
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@組織内の削減実績量を任意の製品にマスバランス方式により配賦し、削減証書と共に供給する方法 (GXマスバランス方式)
GXマスバランス方式を適用したGXスチールを購入したお客様は、当該鉄鋼製品の組織レベル(スコープ3カテゴリー1)、製品レベルでの上流排出量の削減を主張するために削減証書を利用が可能です。
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A組織内の削減実績量の範囲で製品の排出量を配分し、低CFP製品を提供する方法 (GXアロケーション方式)
GXアロケーション方式を適用したGXスチールを購入したお客様は、当該鉄鋼製品のCFPを組織レベル(スコープ3カテゴリー1)、製品レベルの算定に利用可能です。
鉄鋼材料は幅広い用途に使われ、現代社会に無くてはならない素材です。一方、鉄鋼製造プロセスでは多くのGHGが排出され、気候変動に関する議論の中では、削減が困難な(hard-to-abate)産業の典型例とされています。そのような中でも、国内外の幅広いお客様から、排出を低減させた鋼材に対する供給ニーズが高まっています。長く困難な鉄鋼産業の脱炭素移行期には、GHG排出量の削減こそが何より重要です。そうした認識のもと、GXスチールを必要とするお客様に対して、GHG排出削減を経済価値化するGXスチールを供給することが、重要なソリューションとなります。
GXスチールの提供にあたっては、GHG排出量や削減実績量の算定において、各種ISO規格に準拠または参照します。また、当該算定内容について第三者による検証を受けることにより、透明性を担保の上、削減効果のダブルカウントを適切に防止いたします。
削減実績量を反映したGXスチール事例
参考: GX価値の製品への体化を巡る国内外の動向 (2025年10月時点)
worldsteel(世界鉄鋼協会)
2024年11月、worldsteel は、鉄鋼産業におけるGHGの流通管理(Chain of Custody)モデルについてのガイドライン(worldsteelガイドライン)を公表しました。worldsteel ガイドラインは当連盟ガイドラインを基礎として開発されたものであり、GHG排出削減量をマスバランス方式で製品に割り当てるという、GXマスバランス方式と同様の考え方に基づいています。
SBTi GHGプロトコル
世界的に産業脱炭素化を進めていくことの難しさを踏まえ、例えばScience Based Targets initiative(SBTi) などでは、環境属性価値証書をサプライチェーンにおけるGHGの排出抑制戦略に活用する方法についての議論が活発化しています。2025年3月に公表されたSBTiのCorporate Net-Zero Standard V2のドラフトにおいて、直接的緩和・間接的緩和という形でChain of Custody手法を取り入れることが示唆されました。また、Greenhouse Gas Protocol(GHGプロトコル)の改訂作業でも、Chain of Custody手法を含むマーケット手法・アクションの算定への反映方法に関する検討が進んでいます。
需要業界における関心の高まり
自動車業界では、使用段階の次に排出の大きな製造段階のCFP削減の取組みが進んでいます。2023年に制定された欧州CO2排出性能規則(Regulation(EU)2023/851)において、2035年からのゼロエミッション義務や2026年までに導入予定のLCAベースの評価制度が明記されたことなどを受け、将来的なLCA開示義務化に向けた規制整備も進行しており、低CFP鋼材のニーズが一層高まっています。
建築分野では、2025年4月に策定された「建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた取組の推進に係る基本構想(建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議)」において、2028年度を目途に建築物のライフサイクル全体における環境負荷を算定評価する制度の導入を目指す方針が示されました。これを受け、国土交通省は「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会(建築物LCA検討会)」を設置し、建築物全体のLCA算定の義務化や、建築物全体からのGHG排出(WLC: Whole Life Carbon)の低減に向けた検討を進めています。建材生産者に対しては、建材製造に伴うCO2排出量等を原単位として整備し公開することを求める方針も示されています。こうした動きを受け、建築業界においても、使用素材の中でもGHG排出量の比率が大きい素材のCFPに注目が集まっています。
鉄鋼業界も鉄鋼を使用する業界も市場のグローバル化が進展しています。こうした状況を踏まえ、官民が連携して国際的な理解の促進に努めた上で、排出削減プロジェクトを伴うGXスチールが、CFP が低い素材として評価されるための国際的な標準等を確立することが重要です。
日本政府
日本においては「GX 製品市場に関する研究会 中間整理」にも示されている通り、GHGの削減実績量に着目し、需要側においても産業の脱炭素化に貢献することの重要性に対する認識が高まっています。また「GX推進のためのグリーン鉄研究会」でも、「GX推進のためのグリーン鉄(GXスチール)」は「企業単位での追加的な直接的排出削減行動による大きな環境負荷の低減があり、排出削減行動に伴うコストを上乗せした場合には、一般的製品よりも価格が大きく上昇する鋼材」と定められ、政府による優先的調達や政府による購入支援などの政策を重点的に講じ、市場拡大を図っていく対象とされました。
グリーン購入法においても、GXスチールの優先調達方針が示されました。「環境物品等の調達の推進に関する基本方針(令和7年1月28日変更閣議決定)」において、「原材料に鉄鋼が使用された物品」がグリーン購入法の共通の判断の基準として新たに追加され、
@ 削減実績量が付された鉄鋼であること (一般社団法人日本鉄鋼連盟作成の「グリーンスチールに関するガイドライン(現GXスチールガイドライン)」の手続に従って削減実績量が証書として付されている鉄鋼)
A 当該物品に使用されている鉄鋼のCFPが算定・開示されていること
の両方を満たす鉄鋼を使用した物品は、「より高い環境性能の基準であり、調達に際しての支障や供給上の制約等がない限り調達を推進していく基準」である基準値1に位置づけられました。
共通の判断の基準に係る情報提供について | 環境省
