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2021年 橋本会長年頭挨拶

2021年1月5日

 新年あけましておめでとうございます。年頭に当たりまして御挨拶申し上げます。

 日本経済は新型コロナウイルス感染症の影響から依然として厳しい状況にあるものの、自動車産業の回復を皮切りに、徐々に各産業に回復の兆しが見られております。更には、中国のX字回復に牽引され、国際鉄鋼市場は需給タイト化、市況価格の上昇が進んでおります。こうしたなか2021年の新春を迎えた訳ですが、この傾向が継続するかどうかその見極めは難しく、鉄鋼各社は引続き中・長期的な構造の変化に適応すべく、各社における最適生産体制の構築を続けていくこととなります。
 このような情勢のもと、当連盟としての課題認識、主な取り組みについて、6点申し上げたいと思います。

 


1.「2050年カーボンニュートラル」実現に向けて
 昨年10月、菅総理大臣が所信表明演説において2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言されました。この野心的な方針の下、日本鉄鋼業界としてもゼロカーボン・スチールの実現に向けて果敢に挑戦する所存です。
 カーボンニュートラルの実現は、国の総力を挙げた取組みが必須であります。ゼロカーボン・スチールの実現に向けては、水素還元製鉄という新たな生産プロセスの着想はありますが、技術的難易度が高く、実現には多くの課題を解決する必要があります。技術が確立された場合においても、実機化に向けては大量かつ安価なカーボンフリー水素の供給インフラ構築に向けた国家戦略が必要となります。また、水素還元製鉄技術開発には長期的かつ莫大な開発投資が必要となりますが、あくまで脱炭素化のためのプロセスであり、これ自体が鋼材生産性の向上や商品付加価値向上につながるものではありません。このため政府による長期的かつ十分な支援が必要であります。また、経済を維持しつつ日本の目標であるカーボンニュートラルを実現するという意味からは、抜本的な生産プロセス転換に伴う大幅なコスト上昇を、国民の理解を得た上で、社会全体で負担する仕組みの構築が必要です。一方、炭素税等のカーボンプライシング施策は、研究開発、プロセス転換、インフラ構築等に時間と費用がかかる中で、逆に取り組みを阻害する要因となるため、導入はもちろん導入に向けた何らかの方向付けを行う事に断固反対致します。
 2050年カーボンニュートラルの実現においては、我が国産業の国際競争力維持強化の視点も欠かせません。製造業にとって基礎インフラである産業用電気料金が世界でも突出して高いものになっており、この問題について早急な解決が必要不可欠です。
 エネルギー基本計画の見直しについては、再生可能エネルギーの最大導入の裏腹で発生するFIT賦課金の急上昇への歯止めはもとより、安全が確認された原子力発電の再稼働に留まらず、脱炭素の重要な選択肢でもある原子力については技術開発とともに新増設、リプレースをも視野に入れた新たなエネルギー基本計画を策定し、産業政策とエネルギー政策が一体となった成長戦略が描かれることを期待します。

2.過剰生産能力問題・通商摩擦について
 鉄鋼業の過剰生産能力問題については引続きグローバル・フォーラムやOECD鉄鋼委員会など、多国間での政府の取組みに対する協力を継続実施していきます。特に、過剰生産能力問題の再燃が懸念されるなか、グローバル・フォーラムの取組みの重要性が増しており、鉄鋼業界としても可能な限りの協力を実施していく所存です。
 感染症の拡大に伴い、世界全体で保護主義的・自国優先的な通商政策が連鎖的に導入される中、アンチダンピングやセーフガード等の通商法提訴に加え、鉄鋼製品に対する強制規格や輸入ライセンス等の非関税措置もアジアを中心に拡大しています。日本鉄鋼連盟は、政府が主催する二国間鉄鋼対話が継続的に開催できるよう日本政府に協力し、主要国・地域の政府および鉄鋼業界との意思疎通を図り、通商摩擦の未然防止と自由で公正な鉄鋼貿易の維持・発展を目指す取組みを推進していきます。
 また、二国間対話を補完する形で、米国、韓国、インド、ASEAN等、主要国・地域の鉄鋼団体との事務局間会合を鋭意行っていきます。

3.安全衛生活動の一層の深化
 日本鉄鋼連盟では、「安全は全てに優先する」との基本理念のもと、安全対策に関する鉄鋼業界共通の指針・マニュアル作成のほか、新型コロナウイルスの感染リスク対応として、リモート形式での全国大会・分科会等の活動を果断に遂行・展開するなど、現場での安全作業を確保・支援するための諸活動に着実に取組んできました。
 また、経済産業省、厚生労働省、中央労働災害防止協会と製造業主要10事業者団体によって構成される「製造業安全対策官民協議会」については他団体とともに継続的な対応を図りつつ、最新技術を活用した安全対策事例など、業種横断的に得られた知見についても、会員各社へのフィードバック等を通じ、安全衛生活動の一層の水準向上を図ってきました。
 昨年の重大災害件数は3件と、一昨年の8件から相当程度減少しておりますが、日本鉄鋼連盟では、業界共通の課題である「経験年数の浅い現場作業者」の労災未然防止に焦点を当てた好事例情報の共有等を継続しつつ、“重大災害ゼロ”に向けて、引続き安全管理水準の一層の向上に資する様々な取組みを果断に推進してまいる所存です。

4.企業の再活性化・競争力強化に資する法人課税改革への取組み
 新型コロナウイルス感染拡大等の影響により企業自身の変革が不可避となるなか、危機的状況収束後の新しい経済社会の構築を見据えた企業活動の再生と活性化や競争力確保の観点からの税制の見直しが必要です。その一つが、償却資産に対する固定資産税の見直しです。設備保有に対する償却資産課税は、その設備から生み出される所得に対する課税との二重課税となっている等、課税制度面での問題があり、日本の高コスト構造の一因となっております。国内の鉄鋼生産設備は、デジタルトランスフォーメーション(DX)等のイノベーションを活用した大規模な更新投資が必要な時期を迎えるなかで、本税制は大きな足かせになっており、引続き、関係各位ともご相談しつつ、取組んで参ります。
 令和3年度の税制改正として予定されている、研究開発促進税制の拡充、一部欠損金利用の緩和や特定の設備投資促進税制等については、一定の評価をし、歓迎しています。関係各位のご支援を賜りつつ、その活用に努めて参ります。

5.デジタルトランスフォーメーション(DX)推進による業界共通課題の解決に向けた取組み
 日本経済の成長戦略の重点課題であるデジタル化の推進、政府のデジタル庁創設の動きと呼応し、鉄鋼業界においてもDXの推進による業界共通課題の解決に向け所要の取組みを進めて参ります。日本鉄鋼業の競争力の源泉である膨大な操業等のデータの蓄積を活かしたコスト面や品質面での更なる国際競争力の強化や、世代交代や感染症対応などの変化対応力の強化を目指す各社の取組みについて、ドローン、5Gの利活用拡大を始めとした規制改革要望等を通じて強力に支援していく所存です。

6.国内外の社会基盤づくりに寄与する市場開拓活動の推進〜国土強靱化関係 
 近年多発する甚大な自然災害に対し、被災地の復旧・復興はもちろん、政府・自治体が取組む国土強靱化施策の推進等において、安全・安心に資する「鋼構造」の役割は益々高まっています。日本鉄鋼連盟としても、橋梁、港湾、河川堤防など既存インフラの補強・更新ニーズに対する鋼材利用技術、高性能鋼の公的設計基準への反映に資する研究、公共建築物の鋼構造化推進、インドネシア鋼構造協会への支援等、鋼構造技術・工法の更なる普及に向け、今後もより積極的な活動を展開していきます。

 以上、6点、主な課題と取組みについて申し上げました。

 日本鉄鋼業は、人口減少・高齢化による内需の低迷、各国の自国産化による輸出減少に加え、今や世界の鉄鋼生産の6割を占める中国が発する大きなうねりの中で、大変難しいかじ取りを求められております。日本鉄鋼業が今後とも日本の社会基盤を支えるという変わらぬ使命を果たし続け、2050年カーボンニュートラルに向けた国家総力戦に貢献すべく、日本鉄鋼連盟は関係各位のご理解とご支援を賜りながら、諸課題に取組んで参ります。


以上

本件に関するお問合せ先
 総務部総務・秘書・広報グループ(広報) (Tel:03-3669-4822)

 

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